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医療施設で訪問演奏、患者や医療者を音楽で支えるヴァイオリニスト‐宮下琳太郎?東北大学医学部5年生らに聞く
医療施設で訪問演奏、患者や医療者を音楽で支えるヴァイオリニスト‐宮下琳太郎?東北大学医学部5年生らに聞く
TUHレポート 2023.12.18

医療施設で訪問演奏、患者や医療者を音楽で支えるヴァイオリニスト‐宮下琳太郎?東北大学医学部5年生らに聞く

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※m3.com地域版『東北大学病院/医学部の現在』(2023年11月3日(金)配信)より転載

 病院の心地よい空間づくりや患者さんの精神的ケアを目的に、医療現場にアートや音楽を導入する動きが広がっている。音楽大学を卒業後、現在は東北大学医学部で医師を目指しながら、病院にいる全ての人の心を音楽で支える「きょうゆうプロジェクト」を立ち上げた宮下琳太郎氏、音楽家の森里香氏にプロジェクトを始めた経緯や今後の目標を聞いた。(2023年9月26日インタビュー)

――現在の活動について教えてください。

宮下) 軸としているのは、医療施設で訪問演奏を行う「きょうゆうプロジェクト」という活動です。単にコンサートを開催するのではなく、医療者や患者さんやご家族など、病院と関わる全ての人を音楽の力で支えること、より良い関係の構築をサポートすること、社会の中で音楽を実践することの三つを目標に掲げています。

――始めようと思ったきっかけは。

宮下) 医学部入学前に音大を卒業しているのですが、在学中から芸術としての音楽を追求することに加えて、社会の中での音楽に関心があり、加えて、何か人の役に立てる仕事をしたいという思いで医学部を再受験しました。

 音大時代から医療施設や介護施設などで訪問演奏はしていたので、医学部に入学するにあたって音楽と医学を結びつけられないかと考えました。以前に東北大学にあった音響医学分野の教授に相談に行ったり、音楽と脳の関連を調べたり、個人的に音楽を科学的に考えるという試みをしていたところ、ちょうど音大時代の友人の森さんと電話で話す機会があって、そこで意気投合しました。東北大学が主催する、学生チャレンジクラウドファンディング「ともプロ!2021」に挑戦することを決め、結果、92万円もの寄付をお寄せいただきました。ご寄付を活用した医療施設でのコンサートをこれまでに4回、開催しています。

森) 私は福島出身なのですが、東日本大震災が中学校3年生の時で、当たり前ですが自分は何にもできず、原発が爆発した時もすぐに避難したんです。大人になってから、福島出身ですと言うと、大変だったねとか、大丈夫だった?と声をかけられることが多くて。大人になれなかった子供たちがたくさんいる中で、自分は大きな被害を受けていないのに、何もできていないという申し訳なさを感じていました。

 そんな時、たまたま続けていたバイオリンで人の役に立てないかと音大に進みました。卒業後、ただ演奏するだけでなく、もっと一人一人に届く音楽ができないだろうか?音楽の力ってなんだろう?と考えていたところ、宮下に再会しました。社会の中に音楽は必要だ、と言ってもらえるように、そしてその必要な理由を科学的な見地から伝えていけるようになりたいということを2人で話したことを覚えています。

宮下) よく「音楽の力」はみんなを元気に明るくする、と言いますが、それにはいろいろな要因があるはずです。みんなが音楽から感じる何かを客観的に明らかにしていくことは、プロジェクトのミッションの一つでもあります。目に見えない力を、芸術の良さを損なわずに、科学的に示すことに挑戦していくというプロジェクトの軸となるところを森さんと共有できたことは、踏み出す大きなきっかけになりました。

森里香氏と宮下琳太郎氏

――活動する上で大切にしていることはありますか。

宮下) プロセスです。一般的に、医療施設や介護施設などでの音楽会は、選曲や企画を音楽家任せにすることがほとんどです。音楽家側も、きっとこういう曲が喜ばれるんじゃないかという想定で選曲をすることが多いので、だいたいどこの施設でも同じ構成になってしまいます。そこに音楽家と訪問先の人たちとのコミュニケーションは発生しません。僕たちは音楽会を開催する前に必ずその施設の方にインタビューをするようにしています。「普段、やりたいと思っていて、できていないことはありますか?」と。僕は医学を学ぶ身でもあるので、医療施設の課題や働く方々の思いをできるだけ企画に反映して、できればそこの施設の人にも出演してもらうことを心がけています。

森) 打ち合わせを何度も重ねることで、その思いを企画に詰め込んで音楽会をつくっていきます。例えば、東京都府中市にあるドナルド?マクドナルド?ハウスで音楽会を行った際は、「本当はみんなとお茶会をしたいんです」と言われ、「いつものハウスで、ちょっと贅沢な時間」をテーマに設定しました。スタッフやボランティアの皆さんが飾ったお花のある場所で、生演奏を聴きながら飲み物とお菓子をご家族に配られて。ランチタイムと夜の2公演を行ったのですが、お昼はご家族が寄り添い笑顔あふれる時間、一方、夜は明かりを落としていつもと雰囲気の異なる空間を演出して、ご家族はまさに特別な時間を過ごしているようでした。滞在するご家族と、スタッフ、ボランティアの方など、2公演で約35人の方にお越しいただきました。終演後、スタッフの方がご家族とうれしそうに話している姿や、やりきった表情から、スタッフの心も支えられたのではと感じました。スタッフの思いは、施設の数だけあると思っています。

宮下) 2022年7月に行った東北大学病院のコンサートの際には、事前のヒアリングで新型コロナウイルス感染症の発生以降、院内のコンサートが2年半中断していることや、患者さんとご家族との面会や病院スタッフの行動が制限され、人同士とのつながりが希薄になっているという課題があると聞きました。

 そこで、人から人へのつながりが感じられる「プレゼント」をコンセプトに提案しました。副病院長や看護部長に、「あの方に贈りたい曲」と題して、患者さんや病院スタッフに贈りたい曲とメッセージをいただき、リクエスト曲でプログラムを組み、メッセージを紹介しながら演奏するという企画です。コンサートには、患者さんや病院スタッフ、 約50人が足を運んでくださいました。とても好評で、特に「プレゼント」というコンセプトを評価していただきました。ただのコンサートに終始せず、音楽の力で心を支えるという理念を表現できたのではと感じています。

こども病院でのコンサート(宮下氏提供)

――医療施設という場所にこだわる理由は。

宮下) 僕らが演奏する曲は一つでも、聴いている方それぞれが、それぞれの記憶と結びつけながら聴いていると思います。病院という場所は、例えばショッピングセンターを歩いている人と比べれば、それぞれの方がいろんなことを抱えているという点でいろいろな響き方をしているのではと感じています。音楽の特徴の一つとして、その曲を聞いたら、旅行した時の楽しい記憶が思い浮かぶとか、昔よく通っていた喫茶店の匂いがするといったことがあると思います。僕ら音楽家の手を離れたら、勝手に音楽が形を変えて、その人の心にぴったりの薬になる。医療施設は、そのような力を音楽が発揮できる場所ではないでしょうか。

東北大学病院でのコンサート(宮下氏提供)

森) 生演奏であることも大事にしています。タブレットで聞く音楽や見る映像ではなく、音楽家が弾いているときの視線や楽器の響き、病院にいながら目の前に音が流れてくるという非日常の風景は病院だからこその刺激となって、何か前向きになれることにつながればという思いで演奏しています。

――今後の目標は。

宮下) 事業として成立させることです。そのために価値を伝えていく必要がある。誰かの役に立ちたいという気持ちで医師という仕事を目指したのですが、同時に、音楽にできて医学にはできないことがあると感じるようにもなりました。患者さん一人一人の目に見えないストーリーに音楽を響かせることで全人的に人を支える。そういう活動ができたらいいなと、その自分の居場所を切り開くことも含めて、楽しんでいければと僕個人としては思っています。

 また、2023年夏に東北大学で開催した「学都 仙台?宮城 サイエンスデイ2023」で、医学生×きょうゆうプロジェクト persents「音楽会と体験で学ぶカラダのしくみ!~声?耳?眼のふしぎ~」という企画が文部科学大臣賞を受賞しました。音楽要素を取り入れた講演会が医学?科学を世に伝える方法として評価されたことで、音楽の力を発揮できる新たな場所も見出していければと思います。

文部科学大臣賞表彰(2023年7月、宮下氏提供)

森) 患者さんにとっても心地よく、医療者にとっても働きやすい空間に音楽の力が使われるようになればうれしいです。自分を大切にする方法として、音楽はいかがですか?という提案をしていければと思います。医療者の忙しさや人手不足という課題がありますが、いろんな形に変容できる音楽だからこそ、私たちにできることがあると信じて続けていきたいです。

【取材?文?撮影=東北大学病院 溝部鈴】

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宮下 琳太郎(みやした りんたろう)

桐朋学園大学音楽学部を卒業し、現在は東北大学医学部医学科で学ぶ。きょうゆうプロジェクト共同代表。音大ではヴァイオリンと指揮、室内楽を学び、これまで国内外の公演に出演し、多数の受賞歴がある。医学の勉強の傍ら、精力的に演奏?指導活動を行っている。社会貢献活動にも取り組み、南相馬市より感謝状を贈られる。
森 里香(もり りか)

福島県立安積高等学校を経て、東京音楽大学卒業。同大学院科目履修生修了。第75回TIAAオーディションに合格し、同演奏会に出演。地域音楽コーディネーター。関東や福島で演奏活動を行う。2021年にきょうゆうプロジェクトを設立し、共同代表を務める。病気と闘うこどもとその家族を支えたい思いを持つ。

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