iNDEX

東北大学病院 東北大学病院
  1. ホーム
  2. 連載
  3. 外からの視点
  4. 水をのめ

COLUMN

外からの視点

08

外からの視点 2023.08.02

水をのめ

くどうれいん

SHARE

 
  毎年書初めをしている。習字は苦手だが、自由な言葉を筆で書くのはなんだかおもしろくて、おもしろがったまま続いている。何個でも書いていいことにしているので「ねぎとろ」「開けたら閉める」「すぐ返信」「このへんにしておきなさい」「手続」とまあ、こんな調子だ。ここ数年は「水をのめ」と必ず書いている。学生の時からとにかく水分を摂る習慣がなく、定食についてくるお冷ですら飲み切らないことが常だった。
  五年ほど前に、彼氏との花火デートに向かう途中、強烈な腹痛と眩暈に襲われて救急車に運ばれた。脱水と軽い熱中症とのことだった。花火の上がる音を聞きながら「自分で着つけたの、えらいね、ごめんねえ」と言われながら浴衣を解かれ、点滴に繋がれる無力感と言ったらなかった。水は飲んだほうがいい。当たり前のことだが痛感した。
  この頃は一日二リットルを心がけて飲んでいる。水を飲むようになってから食べ過ぎがすこしマシになり、肌もずいぶんきれいになった。なにより、からだの中を水が流れるとき、滝のようなきもちになってうれしい。

 


くどうれいん

作家。岩手県出身在住。初の中編小説『氷柱の声』で第165回芥川賞候補に。著書にエッセイ集『虎のたましい人魚の涙』(講談社)、歌集『水中で口笛』(左右社)、絵本『あんまりすてきだったから』(ほるぷ出版)他。新刊のエッセイ集『桃を煮るひと』(ミシマ社)が発売中。


 

※東北大学病院広報誌「hesso」38号(2023年6月30日発行)より転載

SHARE

SHARE

RECOMMENDED

RANKING

TAG

NEWS